ネガティブな感情は、自律神経の生理反応!?

ネガティブな感情や思考が次々と湧いてくるとき、きっかけになった出来事にどう対処するかを考えていたはずが…気づくと悩みがちな自分を責めて、「自分のネガティブ思考を治すには!?」と問題がすり替わっていること、ありませんか?

でも、こんなふうにネガティブな感情が湧いている状態は、性格のせいでも、考え方のせいでもなく「実は自律神経の生理反応の一つ」と捉える新しい理論があります。その考え方と、ネガティブな感情に対する、新しい対処の仕方をご紹介します。

ポリヴェーガル理論とは?自律神経理論の新しい考え方

「ポリヴェーガル理論」は、1994年アメリカの神経生理学者のステファン・W・ポージェス博士が発表した理論で、以降改訂されながら、今も発展し続けている理論です。

これまで私たちは、自律神経は、「交感神経」と「副交感神経」に分かれていて、活発に動いたりするときに優位になるのが「交感神経」。リラックスするときに優位になるのが「副交感神経」、と習ってきたと思います。

しかし、「ポリヴェーガル理論」では、「副交感神経」をその働きによって2つに分けています。

一つが、「止まる・休む」ときに働く、背側(はいそく)迷走神経複合体。もう一つが、「安全な場所にいる・安心だと感じられる」ときに働く、腹側(ふくそく)迷走神経複合体です。

「ポリヴェーガル理論」では、私たちの心や体の変化は、「交感神経」とこの2つの「副交感神経」、合わせて、“3つの自律神経が働き合って起こっている”と捉えているのが特徴です。

たとえば、きつい一言に怒りで声が震えるのも、ショックで何も考えられなくなるのも、あなたがそうなろうとして、自分で声を震わせているわけでも、自分で思考を停止させているわけでもありませんよね。

むしろ、なんとか普通に対応しようと思っても、自分をうまくコントロールできないことを痛感しているはずです。これを、刺激に対する3つの自律神経の「生理反応」と捉えることで、不毛な悩みから抜け出せる可能性が出てくるのです。

必要なのは、原因追及でも、性格を変えることでもなく、反応の調整!

私が、「ポリヴェーガル理論」について知るために参考にさせていただいたのは、「イライラ、不安、無気力、トラウマ…負の感情がラクになるポリヴェーガル理論がやさしくわかる本」。著者は、20年以上心療内科で勤務されている臨床心理士の吉里恒昭(よしざとつねあき)さんです。

この本の中で、著者が心療内科でよく相談を受けるお悩みの例が挙げられているのでご紹介します。きっとこれは、悩みをこじらせがちな方なら一度は陥ったことのあるパターンではないでしょうか?

「うつ病を治すには午前中に散歩したほうがいいとYouTube動画で紹介されていたので、なるべく午前中に散歩しようとしているのですが、なかなか実行できなくて……。やっぱり私は昔から意思が弱いので継続できないのですよね。意思を強くするにはどうしたらいいでしょう」

吉里恒昭著 イライラ、不安、無気力、トラウマ…負の感情がラクになるポリヴェーガル理論がやさしくわかる本

例では、「病気を治すには?」と問題への対策を考えていたはずが、考えていくうちに問題が、自分の意思の弱さにすり替わっていきます。状況はそれぞれ違っても、思い当たる節がありませんか?

私たちは、自分にも他人にも、問題になるような言動があったとき、性格や考え方に原因があると捉えがちです。でも、「やろうと思うのに、行動に移せない」「変わろうと思っても、変われない」。こんなふうに思い悩んだり、心と体がちぐはぐの状態になったりすること自体は、ダイエットや勉強などを考えてみても、誰しも経験があるのではないかと思います。

こんな葛藤している状態に対して、著者は、

このように「ある悩みを解決するためには、葛藤している自分を直さないといけない」という発想が、本人を苦しめてしまうことがよくあるのです。でも、本当に「葛藤している状態は問題」で「葛藤は解決しないといけない」ものなのでしょうか?

吉里恒昭著 イライラ、不安、無気力、トラウマ…負の感情がラクになるポリヴェーガル理論がやさしくわかる本

と問いかけます。

そして、葛藤してしまう状態を、「複数の自律神経が反応している状態」と考えてみては?と提案するのです。

自分の弱さやメンタルの問題と捉えると、生まれ持った気質や、環境や経験によって育った考え方や物事の捉え方自体を変えていく必要がある、と思いがちですが、これを変えるのはとても難しいですよね。

でも、葛藤を体の反応と捉えると、心よりも見えやすく、アプローチもしやすくなります。

そう、葛藤してしまう状態を、「複数の自律神経が反応している状態」と捉えると、大切なのは、「この反応を調整すること」になります。自分でコントロールできない問題に思い悩む状態から、自分でできることに課題が変わっていくんです。

3つの自律神経を調整!その対処法とは

私たちに起こるさまざまな心や体の反応を、「ポリヴェーガル理論」で捉えてみるとき…。

自律神経のそれぞれの役割や、そのときの心や体の状態がイメージしやすいように、3つの自律神経を、色分けして3色で捉える試みが拡がっています。

「動く・活動する」ときに働く、交感神経系は
「止まる・休む」ときに働く、背側(はいそく)迷走神経複合体は
「安全な場所にいる・安心だと感じられる」ときに働く、腹側(ふくそく)迷走神経複合体は

たとえば、危険を感じて戦ったり逃げたりしないといけないとき。あるいは、頑張っているときなどは、交感神経が活発になっていて、私たちは赤色の状態といえます。

そんな赤色の状態、頑張らないといけない環境が長く続いたり、危険を感じて戦ったり逃げたりしても対処できないと体が判断したときに、体が命を守るために急ブレーキをかけ、じっと災難が去るのを待っているのが、背側(はいそく)迷走神経複合体が働いて起こす、青の状態です。

こうなると、倦怠感が出て、外部をシャットダウンして、引きこもりたくなる感覚になります。このときの言動や、湧き上がる感情は、自動的にネガティブなものが多くなって、いわゆる「ネガティブ思考」と呼ばれる状態に。

でもこれは、体が青の状態に入っているからこそ生まれた、「体を止めるために必要な感情」とも言えるのです。

こんな状態から、休んで心と体が少しずつ落ち着いたり、気にかけてくれる人がいたりして、人とのつながりや、安心感などを再び感じられるようになると、腹側(ふくそく)迷走神経複合体が働いて、穏やかでちょうど良い、緑の状態へと変化していきます。

こんなふうに、私たちの意思とは別に、日々さまざまな出来事から受ける刺激に、反応して、調整しあって、対処してくれているのが、私たちの中にある、3つの自律神経なのです。

ここで忘れてはいけないのが、どの状態、どの色が良い、悪いではないということ。緑の状態は穏やかで良い状態ですが、頑張って活動しないといけないときには、赤の状態になったり、命を守るために青の状態になったりすることも必要で、大切な自律神経の反応なのです。

ただ、環境の変化や、過去の経験など、さまざまな要因で、赤になり過ぎてしまうとき(イライラやパニック)や、青になり過ぎてしまうとき(悲しみや憂鬱)があるかもしれません。

色分けして考えてみると、「私は今、赤の状態なんだな」「青になり過ぎているかもな」と、自分の状態に気づきやすくなります。すると、その対処法にも、自分で気づきやすくなるのです。

たとえば「好きなドラマでも見て少し落ち着いてみよう」

「少しリラックスできるように、まずはお風呂に入ろう」

「〇〇に話だけでも聞いてもらおうかな?」

なんて選択肢があることに気がつけて、自分の自律神経の反応を調整するような、工夫ができるようになるのです。

「イライラ、不安、無気力、トラウマ…負の感情がラクになるポリヴェーガル理論がやさしくわかる本」では、対処法として、さらに3つの自律神経をうまくブレンドしたり、色のグラデーション意識することをおすすめしています。

たとえば、何かを頑張ろうと張り切るのに、急に不安がいっぱいになって止まってしまうことが多いなら、赤と青の状態を行ったりきたりしているのかもしれません。著者は、車でたとえて、「アクセルとブレーキが同時に踏まれている状態」と表現しています。

これは私もよく陥る状況です。本では、こんな状態を調整する方法として、たとえば少しても“安心してやってみたり、楽しみながらできるように”、誰かと一緒にやってみること(緑赤の状態)や、まずは、安心感を感じられる場所で、しっかり休んでみること(緑青の状態)などが提案されています。

すぐに一緒にやる仲間を見つけるのは難しくても、相談できるプロの手を借りるという方法もあります。

味方がいる、共に進もうとしてくれている人がいる。そう感じられる状況を整えることで、つながりを感じられたり、安心感を得られたりして、「楽しんで仕事をする」「チャレンジ精神を持って夢に向かって邁進する」ことができるようになるかもしれません。

私もまさにこの方法を実践中です。

ネガティブな感情を乗り越えて、夢を叶えようとするあなたを応援しています。

ちなみに、私が「ポリヴェーガル理論」をはじめて知ったのは、2023年の1月。所属する協会の新春イベントでした。

そのとき、難しい話だったものの、「自分の気持ちの変化を、無意識の身体の反応(自律神経の働き)から捉える」というのが新鮮で、しかもショックを受けたときに、ネガティブな気持ちが湧いてくる一方で、頭は何もまともに考えられない状態になる自分の状態と、自律神経による「すくみ反応」として紹介された、トカゲなどがピンチのときにひっくり返って死んだふりをして、脳の血流まで下がる様子が、重なって…。

聞いた途端に実体験と重なる理論として、インパクト強く脳裏に残っていました。

そんな「ポリヴェーガル理論」が、なんと専門書ではなく一般向けに書かれた本に偶然出会いました!思ってもみない、でも奥底では求めていた本に出会える。これぞリアルな本屋さんの醍醐味ですよね。

出版月を確認してみると、2024年4月。22年前から心療内科で勤務され、長年メンタル疾患を抱える方に寄り添ってきた臨床心理士の吉里恒昭(よしざとつねあき)さんの著書「イライラ、不安、無気力、トラウマ…負の感情がラクになるポリヴェーガル理論がやさしくわかる本」

ものすごくわかりやすく、実例には思い当たる節がありすぎて、首をぶんぶん振りながら読み進めてしまう一冊です。ぜひお手に取っていただきたくて、難しい理論ですが、吉里さんの著書を参考に、私なりに「ポリヴェーガル理論」のポイントをご紹介させていただきました。

この新しい理論は、比較的新しい考え方で、日本でも研究が始まったばかりです。

ですが、「自分が…」と責めてしまいがちな人にとって、きっと問題が問題じゃなくなるような。アプローチががらりと変わってしまうような。

自分という人間への見方も、これまでの人生の捉え方も再編集してしまうような、そんな可能性さえある捉え方じゃないかと思っています。

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